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独歩が帝國図書館に転生したのは十一月もまだ初旬のことだったというから、凩の吹き始め、街路の桜の葉が色づいては…
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収穫が終わって落ち穂が野ざらしになった田圃に一人、私はその時を待っている。いつの間にか降り始めて止む気配のな…
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夜分、風の音に紛れてかすかに物音がする。 夜の十時を過ぎて、来客には非常識な時間である。妻は体調がよくないと…
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潜書のない日の、昼下がりのことである。暇をもてあましていた花袋は、そういえばと思い立って宿舎の自室を出て、ほ…
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午前九時から非番の文士たちによって始められた大除草大会は開始一時間にして既に中だるみの気配である。中庭のいた…
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——本日午後三時に紀伊半島に上陸した台風ト号は現在本州南の海上を北北西に向かって時速一〇キロメートルで北上し…
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夏の山はまるで生命力の塊のようだった。 楡や樫の木の濃い緑の葉が作る木漏れ日。その下で旺盛に生える雑草たち。…
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図書館のある街は有り体に言って田舎だが、田舎なりに催し物もなくはなく、例えば八幡様で月に一度開かれる蚤の市な…
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国定図書館の一たる帝国図書館は、侵蝕者研究の最前線である以前に日本国でも随一の蔵書量を誇る国立図書館である。…
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「政治家もいいかもな」 と独歩は言うのである。ボックスシートの向かい側で、行儀悪く座席にあぐらをかいて、汽車の…
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「田山さん、これ、預かりましたよ」と、そっけない茶封筒に入って手渡されたのは、手紙のようだった。 花袋はとても…
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帝国図書館の独身寮に設えられた談話室で、花袋は図書館から借りてきた本を読んでいた。久々の全休だったので昼前ま…
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独歩は潜書で消耗すると、決まって熱を出す。その侵食の度合いがひどければひどいほど熱は上がり、敵の鞭の先がちょ…