くちづけ

584 文字

2

 唇を合わせ、舌を這わせ、時折食む。口付けがこれほど官能的で直接的な性行為だということを、悠舜はたった今身をもって知らされていた。
「ふ、ぅん……っ」
 呼吸まで奪ってゆくその唇の熱さに耐え切れず、悠舜は甘ったるい声を意識しないままに洩らした。形作った音が意識の遠いところで反射してゆっくりと戻ってくる。そうやって返って来た己の声を唐突に認識して、悠舜は愕然とした。この甘えたような声が自分の声だというのか。悠舜は込み上げてくる羞恥に身体を捩ろうとするが、しっかりと腰に回された腕がそれを許さなかった。
「黎、し、……んぅ」
 口を開けば、まるで待ち構えていたかのように自分のものでない舌が歯の裏を舐めていく。背筋に走ったその震えを、なんと呼べばいいのだろう。

 相手の意志だけが優先された結果、唇と身体の両方を解放されたのは、さらにゆっくりと二呼吸分は時間が経ってからだった。抱かれていた腕からなるべく早く離れようとした身体が、不自由な足だけの理由でなくふらつく。それでも気丈に身をたて直し、口の端を伝ったどちらのものともわからない唾液を手で拭った。
 許したのは自分だ。しかし、こんなことを許したわけではなかった。今の所業を断固抗議しようと顔を上げれば、しかし相手の唇がぬらりと水っぽく光っているのを見つけてしまい、悠舜はどうにも居た堪れなくなって、結局視線を足元に落とした。

関連小説

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です