No.23 狐火(雷鉢)
熱を分けて/嘘/騙し合い
分厚い袢纏を着込み、両袖の中に腕を入れて自分の体を抱くようにしてなお、三郎はさっきから貧乏揺すりで寒い寒いと文句ばかり言っている。
そんなに寒いなら早く布団に入れば良いのに、本を読んでいる雷蔵のところにわざわざやってきてそれをやるのはどういう意図か。わからない雷蔵ではないが、物語の先が気になった。今日借りてきたばかりの本なのだ。
「うう……寒い。寒い……」
黙って聞いていると、ついに三郎の腕が背後から雷蔵の腰へと回った。ぴとりと胸を背中につけられてますます本が読みづらくなったが、雷蔵はあくまでも本から視線を上げないで言う。
「さっきから、寒い寒いって言うから寒くなるんじゃない?」
「……なるほどね」
黙り込むか、あるいは、むくれるかいじけるかして、もう良いよと離れていくかとも思ったが、三郎は相も変わらずくっついたまま。どうするのかな、と気を取られた頃に、三郎がまた口を開く。
「はー暑い、暑い暑い」
「っ、あはは、そういうことか」
何を言うかと思えば、しょうもない嘘である。一年生みたいな揚げ足の取り方に思わず声を上げて笑うと、雷蔵の気を引けたことが嬉しいのか、三郎は調子に乗ってぎゅうぎゅうと腕に力を込める。笑ったせいで本を読む気は失せてしまった。この時点で雷蔵の負けだ。
「あーあ、暑いな。暑すぎて困ってしまうなあ」
「なら、こんなにくっついてちゃだめだね」
しおりを挟んで本を閉じ、回された三郎の腕を取る。背後に視線をやると、雷蔵のことをちらと伺う同じ顔と目が合った。
「……きみはひんやりとしてるから、くっついてたほうが暑さが和らぐよ」
「そうかい」
「そうだとも」
そう言うので、雷蔵は三郎の腕をそのままにしてやった。回された手は、確かにびっくりするほど冷たくて、水仕事でもしてたのかと問い正したくなる。
「おまえの手は温かいね」
手の甲をゆっくりと撫でさすると、ふふ、と背後から笑い声。
「きみの手は冷たくて、きもちいい」
言葉遊びの騙し合いが続く。絆されている自覚はあった。なんでも三郎の思い通りになってやるのは癪だが、こういうのを惚れた弱みというなら仕方がない。
いいよ、一緒に寝よう、と言う代わり、雷蔵はその手を取って口元に導くと、手の甲につんと口づけた。
「それじゃあそろそろ布団で、おまえの熱を分けておくれよ」
三郎のことだ、やった、と軽い返事が返るかと思ったが。
振り返ると、嘘つき狐は真っ赤になって、ずるい、と小声で俯いた。


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