雀よりも美しく気品のある鳴き声に、悠舜は目を開けた。鶯である。
窓に掛けられた薄布から洩れる昊の色はまだまだ薄く、夜が明けきっていないことを示していた。暁の冷え込みに裸の肩が震える。
昨晩――といっても、もう今日のことであったが――気を失うように眠りについてしまったせいで、夜着のひとつもまともに身に着けていない。
あと数刻もしないうちに出仕しなければならないが、一度目が覚めてしまった以上この格好のままもう一度布団にもぐるのも気がひけた。隣に眠る彼を起こさないようにそっと上掛けを捲ったはずだったのだが、
「……悠舜、寒い」
寝起きのせいかはたまた寒さのせいか、不機嫌な声が悠舜の動きを止める。子供の駄々のような言い草に苦笑しながら、悠舜はそこだけ布団から覗いている頭を軽く二度叩いた。
「夜着を持ってきます、その方が暖かいでしょう」
一言告げてから不自由な足を慎重に床へ降ろすために姿勢を正そうとしたのだが、――それは叶わずじまいだった。
「う、わ……っ」
「こうすればいいよ」
先ほど彼の頭に触れた腕が今度は彼にぐっと強く引かれ、身体の安定を崩したと思った次の瞬間には彼の腕の中に。
さらに上から布団を掛けられて視界は暗闇に閉ざされる。感じられるのは、直接肌に与えられる人肌のぬくもりと、頬に押し付けられた胸から聞こえるあたたかな鼓動だけ。
「ほら、こうすればあたたかい」
布を間に挟んでいるせいでくぐもって聞こえる声に安心している自分を見つけて、悠舜は何だかとても恥ずかしい気分になった。これではまるで若い恋人たちのようではないか。
布団と薄闇のおかげで彼から自分の顔色が伺えない事にこれほど安堵したことはなかった。きっと今の自分の顔は、寒さなど吹き飛ぶくらいに紅く火照っていることだろうから。
「これじゃあまるで冬篭りの虫みたいですよ」
照れを誤魔化そうとして、我ながら拗ねたような語調になってしまった。それを見抜いたように彼は鼻で笑って、
「それならなおさらだ。虫だってまだこんなに寒いんじゃあ外には出てこないよ」
と、面白そうに言った。
また一つ、外で鶯が鳴く。
「もう立春ですよ」
「それでも」
まるで伝わっているのか伝わっていないのかよく分からない会話に悠舜はなんだかもうどうでもよくなってしまって、昨日の疲れも相まって再び睡魔に身をゆだねることにする。遠くなる意識の向こうで彼がぼそりと呟くのが聞こえた、気がした。
「蟄虫始振、でも出てくるのはもう少し後……だからね」


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