あなたが下さった花の苗は、私の庭にしっかりと根付きました。
五月、皐月。空は真夏に遜色ないくらい真っ青に晴れ渡っていて、新緑との対比がそれはそれは美しい。あなたのところではこんな風に空がすっきり晴れることは珍しいと聞きますから、それではこの晴れ空の下、輝かんばかりに咲く白い花の美しさもあなたにとっては貴重なものなのだろうかと想像すると、なんだかおかしな気持ちになります。花をいただいたのは私のほうですのに、私のほうがこの花の美しいところを知っているかと思うと。
それとも、曇り空の下でもこの花は美しく咲くのでしょうか。やはりお天道様のお恵みの多いほうが、植物も人間もうれしいのではないかと思うのですけれど。ああ、これでは日の光の強い地に生きる者の自慢のように聞こえるかもしれませんが、ふふ、そうです、自慢です。遠い国で滅多に会うことのかなわないあなたへ、ささやかな意地悪です。
知っていますか。我が国で一番親しまれている花も、あなたの下さったこの花と同じ種類に分類されるそうなんですよ。私には全然違うように思えるのですけれど、でもこれを知った時にはほんの少し、胸があたたかくなりました。こんな些細なことでもあなたとつながっているのだと思うと、それだけで嬉しくなります。まるで初恋に一喜一憂する生娘のようですが、でもそんな自分が私は嫌いではないのです。
次にお会いできるのはいつの日になりましょうか。花が枯れぬうちに機会があればよいのですが。まだ蕾のままの花がひとつふたつ残っておりますが、この陽気では直に咲き終わってしまうでしょう。手紙が海を越えるのすら待ち切れるかどうか。我が心もこの花が如く、あなたを待ち切れずにおります。枯れる前に、どうぞお早いお越しを、心からお待ちしております。
「…………ふぅ」
セルロイドの万年筆を文机に置いて、日本は大きく息をついた。和紙に似た手触りの便箋には、乾ききらぬインクで見慣れた文字が並んでいる。それをわずかに眼で追って、すぐに日本は眉をしかめた。
つらつらと筆の向くままに書き連ねた手紙は、到底人に見せられるようなものではなくて、それどころか自分で読み返すのも恥ずかしいほどの文面で。一人顔を赤らめた日本は、破いてしまおうと紙に手をかけ――、結局できずに、丁寧に四つ折りにして引出しの奥に仕舞い込んだ。
それから、誰にも見られていないのをいいことに、日本は正座のまま体を後ろに倒し畳に寝転がった。天井の梁だけしか見えなくなって、ようやく顔の熱が引くようだった。
どんなに言葉を尽くしたとしても、私のこの想いを表すには程遠い。どんな言葉でもこの空白を埋めるには至らない。
「……」
なにか言葉を探したくて口を開いたけれども、でもどの日本語でも足りない気がした。言葉とはこんなにも不自由なのかと、絶望すら抱いた。
開かれた口は中途半端なところで止まったまま、唇は何の音も紡げない。
紡げない、かと、思われた。
「あい」
たどたどしい音は、慣れない響きを含む。舌がもつれる。それでも、ようやく見つけた言葉は確かに鼓膜を震わす。
「I, miss… you」
――あなたがいなくて、私はさびしい。


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