かつて見た光

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 栄光。あるいは、希望。
 溢れんばかりの若き才能を惜しげもなく王家に捧げる彼のことを、そのように形容したこともあった。このような若者がいる限り、我が国の未来は安泰だと無条件に信じていた。
 荒削りで危なっかしいところもあるけれど、それは周囲の大人が導いていけばいい。なにしろ彼は若かった。若干十八歳で騎士団長の地位に登り詰め、それでいてなお向上心に満ち、慢心を知らない。国内外の要人の信も篤く、民衆からの支持もある。英雄の名にふさわしい人品を兼ね揃えている。憂いなどどこにもない。
 そう思っていた。
「カイン」
 城内を我が物顔で歩く背は、あの頃に比べたら多少広くなっただろうか。揺れる赤い髪は、以前より少し伸びただろうか。振り返った双眼は色違い。血の色をした左目は北の恐ろしい魔法使いのものだと聞くが、人なつっこく細められるとどうもそんな気がしない。
「ドラモンドか?」
「様をつけろ、馬鹿者」
「ご無沙汰しております、ドラモンド様」
 ふっと笑って、手が差し出される。握手?と疑問に思うより先に手は顔面に激突する。
「うぶっ、何をする!?」
「あ、悪い。間違えた」
「敬語!」
「申し訳ありません。間違えました」
 何を間違えたのかの弁明もせず、彼は気の抜けた顔で笑っている。痛む鼻を押さえて見上げる。そこだけ切り取ればあの頃と何も変わらない光景。輝かしい未来に向かって伸びる、若木のような男。カイン・ナイトレイ。
 ドラモンドはたまにどうして、この男から目を背けたくなる。暗いところから見上げる空が眩しすぎて直視できないように。川面に映る月の煌めきに目を奪われることのないように。
 あまりにも変わらない姿は、変わったのは誰かということをまっすぐに突きつけてくる。
 栄光。あるいは、希望。
 その正体を確かめるだけの勇気が、ドラモンドにはない。自らがひっくり返したカードを、もう一度裏返すだけの信念がない。覚悟がない。
 だから見えないところに押し込める。言葉と虚勢で覆って蓋をする。おほん、と咳払いを一つして。
「今日はいったいどういう用件でここにいるのだ、魔法使い風情が」
 いい加減で、嘘つきな、魔法使い。
 どんな言葉で飾っても、彼の印象は変えられそうにないものを。

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