Well done.

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「アメリカ、この皿をしまってくれないか」
「うん。えーと、この棚でよかった?」
 些細なことである。
 たとえば物をあるべき場所にしまうだとか、花に水をやるだとか、朝玄関まで行って新聞を取ってくるだとか。
そういった些細なことの一つ一つに対して、小さなアメリカの頭のてっぺんに
「Well done」
 と、言葉が落ちてくる。
 時々はそれに加えてくしゃりと髪をなでられる。ぼさぼさになった頭を押さえながら顎を上げると、イギリスは大概、口の端を歪めて自分を見下ろしている。
 満面の笑みではなく、見ようによっては皮肉げですらあるそれが彼精一杯の頬笑みであることを、アメリカは正しく理解していた。
「Well done」
 そう言われるたびに、そんなに言うほどのことじゃないのになあと明らかな子供扱いに唇を尖らせるのだけれど、彼は笑って取り合ってくれなかった。
 なにせ、本当に大したことではないのだ。もしかしたら猿だってできるかもしれない、まったく当り前のことにたいして、彼はいちいち
「Well done」
 と、そう言う。そわそわして、なんとなくいたたまれない気持ちになる。胸と喉の隙間のあたりがむずむずとくすぐったくなって、その言葉はアメリカを、まるで自分がとてつもないことを達成したような気分にさせる。実のところ、そういうわけでアメリカは、それを言われるのがそんなに嫌いなわけではなかった。
 そして、そう言うときのイギリスは、決まって褒められているアメリカよりも誇らしげで、やっぱりちょっとすれば皮肉っぽくも聞こえるのだけれど、
「お前は俺の自慢の弟だ」
「やめてよ、そんな、大げさなんだから」
 アメリカは、たいてい背中でそれを聞いた。なにせ、色白なほっぺたがリンゴみたいに赤く染まっているのを、以前イギリスにつつかれたことがあったから。

「ねえイギリス、そこにある俺のカップとってくれない?」
「これか?」
「そう」
 幾つか並んでいるカップのなかから、違わずアメリカお気に入りの、黄色いマグを選んで差し出したイギリスに、たまたま思い出していたので、アメリカは付け加えてみた。
「Well done、イギリス」
 イギリスは怪訝そうな顔をしただけだった。
 幼いころの自分の、あのいたたまれない気持ちを少しは味わえばいいと、そこまで考えたわけではなかったけれど、アメリカは小さな不満を舌打ちに変えて、澄ました顔でそっぽを向いた。

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