夜が明けてもなんとなく薄暗く、いつもより肌寒い朝。賑やかな鳥の声はなく、代わりに屋根に雨粒が当たり雨樋を流れる音が響く、そんな朝のことである。
(頭、いたい……)
五年ろ組鉢屋三郎は、目覚めと同時に左のこめかみの奥に重怠い痛みを覚えて眉を顰めた。横たわったままぼんやりと天井を眺めながら、雨音や気温で今朝の天候を知り、また昨日の出来事などを思い返して頭痛の原因に見当を付ける。
(いつものやつだ)
もともと偏頭痛持ちの三郎は、月に一、二度、こうした頭の痛みに悩まされる。最近は自分なりに原因や対処法を編み出し、うまく兆候を掴んで事前に予防するなど工夫することで頻度はかなり減ったが、それでも時たまどうにもならない頭痛に襲われることがあった。
たかが頭痛、されど頭痛。しかし、忍者のたまごとしてこれしきのことでへばっているわけにはいかないのである。
(熱もない、体は動く)
外傷を受けるような実習はしておらず、頭痛の他の体調不良もない。不本意ながら積み重なった経験の蓄積から「問題なし」と判断して三郎はことさらゆっくりと身を起こした。
「……っ」
随分慎重に起き上がったつもりだが、とたんにずきんと走る痛みに、思わずこめかみに手をやり、きつく目を瞑る。血の巡りと呼応するように痛む頭を宥めながら、ゆっくりと呼吸する。今はまだ慣れていないからいつもより痛むような気がするだけで、しばらくしたらじきに慣れて気にならなくなる。呼吸を整える間、自分にそう言い聞かせているうちに、徐々に痛みは引いていった。
ついたての向こうからは、すうすうと穏やかな寝息が聞こえている。まだ起きる気配のない同室の様子にほっと息を吐きつつ、できれば心配を掛けたくないものだが、と、三郎は物音を立てることなくそっと部屋を後にした。
誰にも見られないうちに朝の支度を済ませ、朝食の時間をやり過ごす。頭痛は酷くもならなければ軽くもならなかった。相変わらずずきずきと主張するこめかみを手で押さえたくなるのを我慢して、三郎は表面上何でもない振りをして教室へ向かう。よほどひどい顔色のはずだが、お生憎様、面の皮だけは人より何倍も厚いせいで、振る舞いにさえ気をつければ気付く者はいない、はずである。
今日は教科の授業が午前中だけで、午後は委員会活動に充てられいた。ひとまず午前の授業を乗り切ればあとは適当に理由を付けて昼寝でもしていればよい。
「三郎」
(来たな)
教室へ向かう途中の廊下で、後ろから声を掛けてきたのは、今朝から顔を合わせていない同室の相棒だった。笑顔を作って振り返る。
「雷蔵、おはよう」
いつもの調子を意識して声を出したら、またひとつ頭の奥がずきんと痛んだ。大丈夫大丈夫、と己に言い聞かせながら相方が追いつくのを待つ。いつもなら隣に並ぶ雷蔵は、三郎の目の前まで来ると挨拶も返さずに、じっと顔を見つめて言った。
「三郎、頭痛いんじゃないの」
「…………」
三郎はしばらく黙ったままあさっての方を向いてそらっとぼけていたが、雷蔵の視線が外れないのを悟ると、はあ、と溜息を吐いてひとつ頷いた。
「まったく、雷蔵には敵わんなあ」
「五年も同じ部屋にいたらね」
意外に思われるかもしれないが、三郎は雷蔵にだけは嘘をつかない。否、すぐにバレる嘘をつかない、と言った方が正確か。口八丁手八丁で相手を煙に巻くのは鉢屋三郎の十八番ではあるが、こと雷蔵相手にはそれが通用しない、ということは、三郎もそろそろ気がついている。それこそ、五年も同じ部屋にいるので。
そして何より、下手な嘘を吐いた暁にはバレた後が恐ろしいのが雷蔵というおとこだった。普段の悪意無いいたずらや顔を借りているが故のなりすましには寛大なくせ、心配かけまいとして怪我や病気を隠そうものなら、これがもう目も当てられないほど怒られる。怒鳴ったり手を上げたりならまだマシで、口をきかない、耳を貸さない、冷たい目で見下ろされる、と三拍子揃うので流石の三郎もほとほと懲りた。
これが雷蔵流のしつけの一環だということに、そしてそれがまんまと成功していることに、雷蔵本人も無自覚であれば三郎も気がついていないのは幸か不幸か。なんにせよ、二人の関係はこれでうまく回っているのでそう悪いことはなかろう。
三郎が素直に認めたのに満足したようすで、雷蔵はようやく横に並んで教室への道を歩き出す。
「今日は午前中だけだけど、無理はしないこと」
「うん」
「あんまり痛かったらちゃんと薬を飲むんだよ」
「……善法寺先輩の薬は、よく効くけれど眠くなるからいやだ」
「またそんなわがままを言う」
呆れたような声を出すが、雷蔵は今すぐ長屋に戻れとか、保健室に行けとは言わない。そういうところも雷蔵のさじ加減の上手である。こうして信頼を態度に出されてしまえば、三郎もそう下手なことはできない。これも五年の年月の賜であろう。
「ひどくならなければいいね」
と雷蔵は空を見ながら言った。重たい雲から降り注ぐ雨は、いまだ止む様子がない。
「もしかして、体調悪い?」
一時間目と二時間目の間の休憩時間に、三郎に声を掛けてきたのは八左ヱ門である。
不覚だった。朝はどうにかなる気がした頭痛は、時間を追うごとに徐々に吐き気まで伴うようになり、知らず知らずのうち長机に突っ伏すようにして堪えるので精一杯だった。
こうなった原因は二つ。
一つは降り止まぬ雨がますます強まってきたこと。自己分析に依れば、この偏頭痛は天候の影響を受ける。どうもひとより天のご機嫌に体調を左右されやすいようで、三郎は季節の変わり目などにも体調を崩しやすい。体調の如何でなんとなくこの後寒くなるとか、大風が来るとかがわかってしまう。今日も、この調子では一日降り止まなさそうだ。観天望気には役立つかもしれないが、その代償がこれでは頂けない。
そしてもう一つは、先の授業の内容である。
昨日行われた筆記の試験が返ってきたのだが、それの点数が及第点だったのだ。誰の点数がといえば、今まさに目の前で心配そうに三郎の顔を覗き込む、八左ヱ門の点数である。
今回の試験は、結果次第では進級が危うくなるという重要なもので、実技はそんなことがないのに筆記となると成績ががくんと落ちる八左ヱ門に、ここ最近の三郎はつきっきりで指導に当たっていたのだった。
傍目にそうは見えなくとも意外なほど面倒見が良いうえ、八左ヱ門の今までの試験の点数が思ったよりずっと悪かったことをきちんと把握していなかった三郎は、五年ろ組の学級委員長として密かに責任を感じていた。己がいながらこのクラスから落第者を出すわけには行かない。なにより、八左ヱ門を一人下の学年に残して自分たちだけ卒業するなんて絶対にいやだ。
八左ヱ門は地頭は悪くない。ただ、委員会活動にかまけて予習復習を怠ったせいで授業について行けなくなり、それを放置したせいでどこから手を付けたらよいかわからなくなっただけである。三郎の熱血スパルタ指導により今までの遅れを取り戻し、昨日の試験でも終わった後は「いけた気がする!」と手応えを感じたらしい八左ヱ門に、三郎もようやく肩の荷が下りた気がした。自分でコントロールできることだったら緊張などしない三郎だが、今回はそうではないために、実はこの試験に向けてずっと気を張っていたのである。
ここで話を元に戻そう。偏頭痛の要因の一つに、ストレスからの解放というのがある。ストレスがある状態が続いた後に一段落してほっとしたときに頭痛が起こることがままあるという。今回はまさにその典型で、昨日の試験が終わって気が抜けたせいで、今朝からの頭痛というわけである。そのうえ、先ほど正式に試験結果が返ってきて、八左ヱ門の留年が回避されたことで、三郎は本当にほっとしたのだ。実は頭痛を押して授業に出たかったのも、このためと言って良かった。しかし、ほっとしたのは良いが、ますます頭痛が酷くなってしまった。
「お前のおかげで俺は落第回避できたんだが……もしかして、俺の勉強ばっかり見てたせいで、お前の点数が悪かったとか?」
机に突っ伏していた三郎に、何を勘違いしたのか八左ヱ門はそんなことを言い出す始末。まあ、八左ヱ門のせいといえば八左ヱ門のせいなので、それは間違いない。
「お前のせいだ……」
「えっ、やっぱり!?」
どうしよう、なんておろおろし出す八左ヱ門を見て、やや溜飲を下げる。なお当然、三郎の点数は学級一位の満点である。
「すまん三郎、おれのせいで」
八左ヱ門の大きな手が丸まった三郎の背をごしごしと撫でた。温かい手のひらの温度に僅かに気持ちの悪さが軽減された気がして、そんなことで絆されてしまう自分の体に、どうしようもないなと苦笑する。
「ごめんって、三郎〜!」
今はもう少しその手に甘えることにして、三郎は再び机に顔を伏せた。
三郎は結局、二時間目の前に授業を早引けすることにした。心配だった八左ヱ門の試験結果も確認できたことだし、雷蔵の「無理はするなと言っただろ」と言わんばかりの視線の圧も痛かった。
さて、こうなってしまったら仕方が無い。念のために朝から懐に忍ばせてきた薬包を取り出した。偏頭痛持ちの三郎に、六年の保健委員会委員長、善法寺伊作が処方した頭痛薬である。雷蔵にも言ったが、これがまたえげつないほどよく効く代わりに強い眠気をもたらすもので、三郎はあまり得意ではなかった。睡眠薬かと思うほど、飲んだ後は目が覚めない。たまごとはいえ忍者の学校の五年生ともなれば、人の気配にはそこそこ敏感になるものだ。人が近づいても気がつかないで眠り続けることに、忸怩たる思いを感じてしまう。
薬包を見つめて溜息を一つ。できれば飲みたくなかったが、このままいても快方に向かう気がしないので、飲むしかあるまい。どこかで水を汲んでこよう、と考えたところで、はたと思い出した。この薬を飲む前にはなにか腹にものをいれろと、善法寺から口を酸っぱくして言われていたことを。
今朝は食欲が湧かず朝食も取っていない。流石にまずいのはわかるが、今から食堂に行くのも躊躇われた。午前の二時間目は、ランチの営業に間に合わせるために一番忙しい時間帯だからだ。もちろん、行けば食堂のおばちゃんは嫌な顔一つせずなにかちょうど良いものを用意してくれるだろうが、迷惑には違いなかろう。
普段人の迷惑など顧みずにいたずらに精を出している変装達人が、なぜかこういうときだけはしおらしくなる。天邪鬼な性格にもほどがあるが、本人はいたって真面目だ。
「うーん……」
「——ろう、三郎」
相方よろしく廊下で考え込んでしまった三郎に、柱の陰から潜めるような声が掛かった。
「ん? 兵助?」
「しーっ、静かに」
声の方向に首を向けると、なぜか周囲を気にした様子の五年い組、久々知兵助がこそこそと三郎を呼んでいる。生憎というかなんというか、今は授業中であるので回りにほかの生徒は見当たらないし、そもそもなぜ忍術学園の廊下で隠れる必要があるのかわからない。しかもなぜか、制服の上に割烹着を着ている。明らかに様子がおかしいが、三郎はひとつ、普段は成績優秀でそつの無い彼がこのように挙動不審になる原因に心当たりがあった。ヒント、豆腐。
俄に頭痛が酷くなったような気がしたが、無視して立ち去る方が後々面倒くさい予感がして、三郎は呼ばれるがまま柱に隠れる兵助に近づいた。
「どうした、今は授業中じゃないのか?」
「い組は二時間目は自習なのだ」
「自習なのになんでお前は割烹着を着ているんだ?」
「豆腐を作る自習だ。だが、勘右衛門に知られるとまずい。昨日振る舞ったんだが、量が多かったみたいで、しばらく豆腐は作るなと言われてしまった」
ここだけの話、兵助の豆腐地獄に一番付き合わされているのは五年い組の学級委員長で、兵助と同室の尾浜勘右衛門だった。学級委員長の宿命と言うべきか、同室の宿命と言うべきか。勘右衛門は気のいいやつなので、同室の変わった趣味にも度を越さない限りは付き合うが、それが豆腐禁止を言い渡すくらいなのだから、昨日はまさに地獄を見たに違いない。
「そこで、折り入って三郎に頼みがあるのだ」
「……うん?」
隣の組の学級委員長に同情をしていた三郎は、まさか自分にその矛先が向けられるとは思っていない。まずいかな、は思うものの、逃げるという選択肢が浮かばないくらいには、三郎も参っていた。
結論から言うと、予想していたような事態にはならなかった。
兵助の豆腐小屋まで連れて行かれるかと思ったが、「雨が降っているから」との理由にならない理由で、三郎は学級委員長委員会の委員会室で待つように言われた。確かに、委員会室は教室のある棟から比較的近い。人気の無い長屋に一人で戻るより気は楽で、言われるがままに部屋で待っていると、ほこほこと湯気の立つ小ぶりな土鍋を持って兵助が現れた。
「湯豆腐?」
「の、卵とじ」
かぱり、と三郎の目の前で蓋を取ると、だしと卵の良い香りが部屋中に広がった。その香りに、今の今までなかった食欲が湧いてきて、三郎は木の匙を手に取った。
「いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」
一匙掬うと、ぷるりとした絹ごし豆腐が卵のあんに絡まった。少しとろみが付けてあるようで、匙の上に豆腐と卵がちょうど良い塩梅で収まる。熱そうなので、念入りにふうふうと息を吹きかけて冷ます。その間も、匙から立ち上る香りが三郎の食欲を刺激する。昆布と鰹節で取っただしは、あまくやさしい匂いがする。誘われるように、ぱくり、と口へ運ぶ。咀嚼するより先に、とろとろと舌の上で豆腐が溶けた。そのままつるりと喉の奥へと落ちて行く。胃の腑がぽっと温まり、そこから体中に熱が広がっていく。
「うまい」
「そうか! 今日の絹ごしは自信作なんだ!」
三郎の端的な感想に、兵助はそれでもぱっと花が咲くように笑う。二口、三口と続けて匙を口に運ぶ三郎を、にこにこと笑って見ている。
いくら体調がよくないとはいえ、三郎もこれが兵助のいつもの趣味ではないことくらい気がついていた。いや、もちろん趣味の延長ではあるだろうけれど、この豆腐の卵とじが、試食用ではなく、三郎のために用意されたものだということくらいわかる。大方、雷蔵か八左ヱ門が知らせたのだろうが、兵助はそれを一言も説明しない。そればかりか、三郎の体調を気遣う言葉さえ発しない。それが、兵助なりの気遣いなのだった。
豆腐小僧の名が先行するせいで傍若無人な印象を与える兵助だが、頭の回転が早く、他者の振る舞いもよく観察している。自然な気遣いができるタイプではないが、理屈と類推でひとのして欲しいことやして欲しくないことを理解する。そして不器用ながらも実直に、それを実行に移すことができる。そういうやつなのだった。
小ぶりとはいえ、用意された鍋の中身をきれいに平らげて、三郎はくちくなった腹を抱えて一息吐いた。
と、それを待っていたように、横から水の入った湯飲みを差し出される。何も言わないが視線が促していて、三郎は懐にしまった薬包を取り出して、兵助の目の前でそれを飲んだ。
「しばらく寝なよ。勘右衛門に、委員会の前に起こすように言っておくから」
「うん……」
そんなに急に眠気が襲ってくるものではないはずが、胃が満たされせいかすぐにでも瞼が落ちてしまいそうだった。座布団を枕にして畳の上に横になった三郎のために、兵助が押し入れから備品の毛布を引っ張り出そうとしている。
「へいすけ」
「ん?」
「ありがとう」
返事はなかったが、目を閉じた三郎にも、ふ、と笑った気配が伝わった。
夢も見ずに眠った。
目覚める直前に、両脇がやけにあたたかいと思い、再び眠りに落ちそうになったが、すぐに「寝過ごした」という焦りに気が急いて目が覚めた。映るのは忍たま長屋よりやや高い天井で、ああそうだ、委員会室で眠ってしまったのだと三郎は思い出す。
「おはよう」
こちらが目が覚めたのを瞬時に察して、少し離れたところから声がした。そいつは文机の上に頬杖付いて、にやにやと笑っている。
「勘右衛門……」
明らかに寝起きですと言わんばかりのかすれ声が自分の喉から飛び出してむっとする。ニヤニヤ笑いも気に入らないが、一体自分がどれくらい長いこと寝ていたのかのほうが気になった。
「何時だ?」
「申の刻手前ってところ。よく寝てたねえ」
「兵助に苦情を言わないとな。お前が起こしてくれるって聞いてたんだが」
「そんなカリカリするなよ。後輩が起きるぞ」
言われて、改めて両脇を見やると、左脇には庄左ヱ門が、右脇には彦四郎が、ぴったりとくっついてすやすやと眠っている。目覚める前に感じた温かさはこの二人の体温だった。そのせいで、目が覚めても三郎は起き上がれずに、横になったまま勘右衛門に文句を言うことしかできないのだった。
「どういう状況だ?」
「俺が委員会室に来たら、先に二人がいてさ。起こそうかどうか迷ってたみたいだから、鉢屋先輩は少しお疲れのようだ、って言ったら、自主的に。お前、毛布一枚じゃ足りないって言いたげに体を丸めてたから、寒そうに見えたんだろ」
「それは……悪かったな」
「悪いなんて言ってないけど、謝るなら俺じゃなくてろ組のやつらに言えよ」
心配してたぞ、と勘右衛門はまるで他人事で言う。その距離感が、三郎には心地よい。
兵助が理詰めで距離を測るタイプなら、勘右衛門はそれこそ感覚的に、相手との最適な距離を取る。この人好きのする性格は天性のものと言って良かった。踏み込んで欲しくないところには踏み込まず、しかし相手の好きにさせるだけにはしない。必ず自分の土俵に持ち込もうとしてくるから、侮れない。
今も、寝転がったまま動けない三郎に対して、四つん這いでじりじりとにじり寄って来て、さて何を企んでいるのかと見守っていると、彦四郎を挟んだ三郎の反対側に、ごろんと横になってしまった。
「な、にしてる?」
「俺も寝ようかなって」
「どうして」
「みんな起きないし」
両手に花で、お前だけずるいんだもん、なんて、嘯いて、わざとらしく欠伸を一つ。そんな様を見せつけられては、まだ少し重怠い体を起こす気など失せてしまった。これでは本当に勘右衛門の掌の上だが、今日のところは勘弁してくれようか。
しとしと、しとしと、雨音は止まない。しかし、この雨はそう遠くないうちに止むだろう。もしかしたら綺麗な夕日が見られるかもしれない。偏頭痛の代償に、三郎の観天望気は当たるのだ。だから、今はまだ、もう少し眠っていよう。
胸に宿るいくつもの優しさを抱き締めて、三郎は再び目を閉じた。


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