囲まれている。森の中、見通しは悪いが至る所に気配がする。繰り返されるミッションの中でいい加減に慣れてしまった、感じるのは殺気。それも獣や魔物のものでない、悪意と敵意、あるいは人をいたぶって追い詰める歓喜すら混じった、人間が人間に向ける余計質の悪いたぐいの。
「だから、言ったのに。これ以上はジリ貧になるだけだって」
段々と狭められるその輪の中心で、マスターたる黒髪の少年を背に立つ緑衣の弓兵。最大六基まで抱えられるはずのサーヴァントを、今はただ一基のみ従えるその姿は、あまりにも心もとない、ように見える。
しかし応じる少年の声はあまりにも、のんきだ。
「覚えてないなあ」
「手を切るなら今のうちってやつも?」
「冗談でしょ、ロビン。最後まで付き合うってのなら、覚えてるけど?」
緑衣の端からちらりと覗く木の葉色の瞳が面白そうに歪められる。なんと返そうか、逡巡はわずか。諸々飲み込んで、諦めたように笑う。それが彼なりの、降参のサインだった。
「はあ。こういうのは弓兵向きじゃないんすけどねえ」
「? エミヤは嬉々として向かってくけど?」
「あの弓兵もどきと一緒にしないでください、って!」
敵が、また一歩包囲網を狭めた、その瞬間を待っていた。目にも留まらぬ速さで弓をつがえ、弾く。それは全く見当違いの方向に向かって放たれ、敵は一瞬鼻白んだ、が。
仕掛け罠の糸が、ふつりと切れる。落ち葉に隠された落とし穴が。木々の合間に仕掛けられた毒針が。蜘蛛の糸のように張り巡らされていた鋼線が。一瞬にして敵の足を奪い、動きを止めた。まるで手品のような、しかし種も仕掛けも《存在する》惨劇。
「だから言ったのにね」
命の数の減った森の中で、少年だけが分かった風に微笑んでいる。


コメントを残す