デザイナーベビーの少女の主治医になることに、否やはなかった。
その存在自体知りもしなかったから、命令がなければ出会うことはなかっただろう。しかし、与えられた使命を最善を尽くして全うするのは、彼の本能のようなものだった。見てみぬフリができない性格をしていることは自覚していたから、一度知ってしまえば手を切ることなんてできなかった。
マリスビリーが死ぬ間際、娘を頼むと言ったから、彼はオルガマリーのことも抱え込んだ。何も見ず、何も聞かず、何も食べようとしない少女に食事を与え、それを吐き戻す彼女に水を与えた。食べなくては生きられないからと、嫌がる少女の口に無理やりゼリーを突っ込んだこともあった。父親を亡くした少女の世話をするのは彼にとって当たり前のことだった。
物事がより悪い方に周りだしたのはその後で、人類の灯火が消えたカルデアスに呆然とする彼女を支えなんとかここまで漕ぎ着けた。それなのに。
レフ・ライノールによるテロ行為。オルガマリーの死。たくさんのスタッフが死んで、今までの無理が無理に思えなくなるくらい、いろんなものを背負わなくてはいけなくなった。
「――わたしが戻るまでカルデアを任せます」
それが彼女のオーダーだった。
与えられた使命に最善を尽くす。それがロマニ・アーキマンのやり方だった。今までもこれからも、変わらないはずの。
命令という杖なしには一人で立つこともできないのに、蜃気楼を支えにしてすべてを背負えと彼女は言うのか。
誰もいない管制室。深く背凭れに体を預け、視界を右腕で覆う。
誰にも聞こえないとわかっていたから、よくやく彼は弱音をこぼす。
「……勘弁してくれ」
圧迫された眼球が涙をにじませたが、溢れる前に袖に滲んで消えた。


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