かつて、セーシェルを見つけたのはフランスだった。普通の人間が寄りつかないような岩場の海岸で一人膝を抱えていたのをよく覚えている。フランス以外の誰も、彼女について気が付いている風ではなかった。
そういえば、とフランスは自分について思いだす。フランスの記憶にある限り、初めに出会った人物といえばローマ帝国その人だった。イギリスもおそらくそうだ。というより、あのあたりのヨーロッパ諸国はみなローマが見つけているはずだ。
フィンランドが「不思議な男の子を見つけた」と言い出した時、フランスは案外そんなものかもしれない、と思った。国とは、国が見つけるものなのかもしれない。
考えてみれば筋が通るもので、他国から入ってくるものがなければ国は国の自覚など持たないはずである。自分と同じようであって別の存在があると知った時に、初めて国は国となるのかもしれない。
だからアメリカを見つけたのがフィンランドだったのは当然といえば当然なのだ。
「俺がはじめに見つけてれば、なにか変ったかな……」
一切の気力が抜け落ちたような顔でスコッチを煽る腐れ縁を、フランスはうんざりと見やった。場末の酒場のくたびれた鯨油ランプがちろちろと燃えるのに伴って、そいつの背中の影もまた頼りなく揺れた。
こいつは馬鹿だ。こんな馬鹿と百年も戦争を続けただなんて過去を持つ自分が恥ずかしくなるくらいに。
「何年前のこと言ってるんだ、馬鹿」
「でもな、考えてもみろ。あいつでもお前でもなく、俺がはじめに見つけてたら」
「お兄ちゃん、とでも呼ばせてかわいがったってか」
ぐっと言葉に詰まったイギリスを見るに、そんなやり合いすら急に阿呆らしくなってフランスは自分のグラスに新たな酒を注いだ。酒でも飲まねばとても付き合いきれない。
何年前どころではなかった。百年以上昔の話だ。そんな昔のことを持ち出してまで、こいつはアメリカに未練があるらしい。
勝手に入植地域を制限したのも、重税を課したのも、アメリカに著しく不利益な法律を一方的に制定したのも、全部自分のしたことではないか。それで独立を宣言されたとたんにこれでは、いっそアメリカが不憫である。
「あいつを見つけたのが俺だったら……」
イギリスはそのまま潰れてカウンターに突っ伏した。それを横目で見ながら、フランスはもう一杯、とマスターに人差し指を出す。
ぼさぼさの金髪を見下ろしてフランスは呟いた。
「無理だよ」
多分俺にも、そしてお前にも、アメリカを見つけることはできなかったんだ。
いずれ自分の体の一部になると思っているものを、誰が見つけることなどできようか。国とは自分とは別個の存在なのだから。
はじめから決まってたんだ、出会った時からもう既に、あれはお前から離れていく存在だった。
それを今さら気が付くなんて、本当にこいつは――
「馬鹿だな、お前」
くしゃりと乱暴に髪を撫でてやっても、憎まれ口は返ってこなかった。


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