帰ってきて第一声、
「やよい」
と呼んだら、間髪を入れずクッションが飛んできた。
「うぷっ……なにするんですか」
やたら鋭い投擲にU房はなす術もなく顔面で受け止める。顔の形にへこんだそれをぺっと引き剥がして文句を言うべく同居人の姿を探すと、彼はなぜか何もない壁のほうを向いて肩を震わせている。
同居して半月。彼のこんな姿を見たのは初めてだった。
「やよい?」
どうしたんだろう。純粋な心配でもって肩に手をかける。すると、ぐりん、と勢いよく顔が振り返って、反対にこちらの胸倉を掴まれた。頭ひとつ分の身長差を覆して、見かけによらない体力を見せ付けられる。首が絞まってちょっと苦しい。
「お、おお、おま、どこ、どこでそれを……っ!」
「なにがですかやよい。……あの、苦しいです、離してください」
「それだよ、それ!!」
「やよい?」
「うがああああああああ!!」
乱暴に手を離されて、というよりも頭を抱えたいがためにこちらにかまっている余裕がなくなったんだろう、解放された襟元を直しながら、うずくまってしまった伊八の横にしゃがみ込む。
荒っぽくかき回したせいで、ぼさぼさに乱れた長めの前髪の隙間から、恨めしそうな瞳がU房をねめ付けた。
その表情に、理由はわからない。わからないが、瞬間、鼓動が跳ねた。
「ど、うしたんですか? 顔が真っ赤です、熱でもあるんじゃないですか?」
「誰のせいだ!」
かすかに潤んだ瞳と耳まで真っ赤に染まった表情が、その後ずいぶんU房を悩ませることになるのは、別の話である。


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