忍びの墓守

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 生物委員会は所属する生物が死ぬと必ず弔い、丁寧に墓を掘って埋めるが、そこに墓標を立てることは決してしないという。
 その理由は誰も知らないが、今の生物委員会委員長代理に限っては、そんなものなくとも、どの子がどこで眠っているのかは全部頭に入っているからだ、と笑う。
 グラウンドの端の、ふだん誰も通らないようなところにあるウバメガシの生垣のそばに、不恰好に並んだ石の列。傍目には子供が遊びで並べたようにしか見えないその横を、八左ヱ門は一つ一つ名前を呼びながら辿った。
 いぬたろう、からすまる、はときち、はとみ、ちゃぼこ、とさかのすけ――。
 彼が呼ぶ名の数が果たして多いのか少ないのか、三郎には判じることができなかった。生物委員会が飼育する生物は多岐にわたる。寿命の短いもの、死にやすいもの、忍務に使われるもの、死因は様々だが、ここに眠るものだけが全てではあるまい。死体の見つからないものもまた、多いであろうということは、生物の仕事に関わりのない自分にも理解できた。
 帰って来ぬものは、どうするのだろうと三郎はふと考えて、詮ないことをと思い、すぐにやめた。

 滔々と名を呼ぶ声が、ふいに途絶えた。同時に八左ヱ門の足が止まる。最後の一つの石の前だった。
「おかしいな」
 蓬髪に手を突っ込んで、がしがしと乱暴にかき回す仕草は、彼らしかぬいらだちを直截に表現している。
「絶対に覚えているはずなんだ。だってこいつは、おれがはじめに面倒を任された犬だった。母犬が子育てを放棄したから、手ずから乳もやったし排便も手伝ってやった。それが、おれが目を離した隙に迷子になって、必死で探したけど見つからなくて、一週間して冷たくなって見つかった。おれのせいで死んだようなもんだ。おれは、本当に、自分のことが許せなくって――」
 だから、忘れるはずがないんだ。絶対に覚えているはずなんだよ。
 八左ヱ門は恥じ入るように俯いた。あるいは悲しんでいるのかもしれない、いかっているのかもしれなかった。

 生物委員会は所属する生物が死ぬと必ず弔い、丁寧に墓を掘って埋めるが、そこに墓標を立てることは決してしないという。
 その理由は誰も知らないが、この不器用な友人も、本当はきちんとわかっているに違いない。忍びの学校に墓守はいらないのだ。それを知っていてなお、名を刻まねばいられないのだとしたら、この男は本当に忍びには向いていない。
 卒業したら、早く忘れておくれよ、と三郎は、心のなかで呟いた。俺の名前を、こんなふうにいつまでも呼んでくれるなよ。
 今日がもししとしとと薄ら寒い雨の日であったら、もし陰鬱な曇りの日であったら、三郎は思うだけでなにも言わなかっただろう。何を言っても湿気ってしまうようなそんな日であったなら。しかし、今日は小春日和のぽかぽかと暖かい、それはよいお日柄だったので、三郎はちょっとだけ声を掛けてやってもいいような気になったのだ。
「そろそろ許してやるってさ」
 蝶でも飛んでいそうな陽気だから、この言葉もさぞ間抜けに響いたろう。間抜けに聞こえていればいいと三郎は思う。

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