(2期2話後)
——なんだって世界はこんなに優しくないんだ。
自ら「一瞬」であると名乗る青年が現れて、世界を敵に回せとライルを促す。もっとも世界はすでに彼の敵だった。何も今に始まったことではない。とっくの昔に手は血に染まっているし、戦いの覚悟も済んでいる。
しかしその青年の登場はライルを不安にさせた。気にかかったのは、青年からあの人の気配がしたことだ。
ライルは極めて慎重に、あの人のことを「兄さん」と呼んだ。おそらく青年はあの人を知っている。一度たりとも使ったことのない呼称を乗せた舌が縺れそうになった。
「兄さんは、死んだのか」
ゆっくりとした首肯を目にする。その首が横に振られる様を、欠片も想像していない自分が可笑しかった。
そうか、あの人は死んだのか。あの優しい人は死んだのか。双子のくせに兄貴ぶって、何から何まで背負おうとしたあの人は。人一倍義務感が強くて、それでいて弱虫で、なのにあの時から一度も涙を見せなくなったあの人は。一人で世界を敵に回して、ライルは温かい場所にいると信じてやまなかったあの人は。
あの人は、死んだのか。
兄は、とそう口に出せば、まるで知らない人のことをしゃべっている気分だった。今まであの人を兄と思ったことはなかった。ただ一対の、片割れとしか。離れ離れになってからはいつしかあの人と、自分と別個の生き物であると己に言い聞かせるようにそう呼ぶようになっていたものの、結局ライルは彼が自分と違うものだとはついに理解し得なかった。
実際目の前の男は、己に彼との一対としての役割を求めてくる。
ライルは冷静に計算を始める。CBの接触がカタロンにもたらす可能性と、考えられるメリットそして最悪の事態まで。この浅黒い肌をした青年がどういった立場にいるのかもわからない今、自分に出来うる最善の回答とは何か、冷徹にはじき出す。
泣くのはすべてが終わった、そのあとで十分だ。


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