昔、何かの折に聞いたことがある。神を信じないと公言する者は、一度は誰よりも神を信じ、そして裏切られた者なのだと。
ロックオンは刹那の過去をよく知らない。それでも彼の言葉の端々から浮かんでくるのは、刹那が信仰の代償に受け取った手酷い裏切りの傷痕だ。
まるで笑わない、機械人形のような冷たい子ども。神を信じず、愛を知らない、それをかわいそうと思うのは自分が恵まれていたせいだろうか。それゆえの、ただのエゴなのだろうか。
たとえそうだとしても、癒してやりたいと思った。教えてやりたいと思った。神のいない世界にも、人の愛は存在するのだと。
だからロックオンは必要以上に刹那を構って、その結果あからさまに嫌がられたこともあったけれど、最近ではまともな人間らしいやりとりも増えてきた。
その矢先、ロックオンは刹那の傷の正体を知ることになる。
銃口は寸分の互いもなく眉間を狙っていた。安全装置は解除してある。あと少し指先に力を込めるだけで、両親と妹の仇打ちが叶う。
刹那の赤い瞳は射線と同じくらいまっすぐだった。視線は銃口を通り抜け、ロックオンをひたりと見据えている。
——神を信じないと公言する者は、一度は誰よりも神を信じ、そして裏切られた者なのだという。
自分が撃てば、あいつはもう二度と、人すら信じられなくなるのだろうか。
そう考えて、意味のない仮定だと却下する。神だとか愛だとかの話が入る余地などどこにもない、自分が撃てば彼は間違いなく死ぬだろうから。
今この瞬間、そんなことを考える余裕がある。自分でも驚くほど、怒りや憎しみといった感情が湧かなかった。刹那が仇であると認識してなお、あれが人すら信じられなくなってしまうのを心ならず思っている。
浸食されたのはどちらだ。愛を植え付けられたのは、いったいどちらだ。
はじめから、ロックオンの負けだった。
*
暗くなってゆく視界の中で、遠くにGN粒子の光を見つけて、ロックオンはまだそんなことを思っている。大切な家族を案じるのと同時に、あの小さな子どものことを思っている。
これは裏切りじゃないよな、と心の中で弁解してみる。自分が死んでしまうことで、あいつが愛を信じられなくなってしまったら、いやだなあ。ロックオンはまるで人ごとのように思った。
でも大丈夫だろ。お前はもう大丈夫だろ?
愛を知らなかったあの頃とは違う。お前はきっと、俺のために泣いてくれるだろう。
だから大丈夫なんだ。


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