普段から、皇帝という地位にふさわしからぬざっくりとした服装を好む方ではあったが、いざ正装されるとこちらがたじろぐほどの雰囲気を発するのは、流石というべきだろうか。
「なんだよ、あんまりじろじろみるなよなー」
口を開けばいつもどおりだと、ジェイドは変なところで安堵した。もちろん、圧倒されているなどとは欠片も表に出したりしない。
彼が身にまとっているのは真白な装束だった。一枚の布を独特の重ね方で着衣に仕立て上げたそれは、マルクト皇帝だけが特に重要な儀式でのみ身につける装束である。今回は国民への年始の言祝ぎのためだ。
国一番の上等な絹で丁寧にしつらえられた服である。良く見ると銀糸でこまやかな刺繍が施されており、それが光に反射してきらきらと光っている。縁には彼の金髪を表したような金の糸と、グランコクマの水を映しこんだ青糸で複雑なステッチが刻まれていた。豪奢だが主張しすぎない作りの首飾り、腕に垂らされた鎖飾り。体のラインを隠すようなゆったりとした着衣のせいで、普段よりも中性的に、儚く見えるというのは言いすぎだろうか。
言いすぎだな、と無意識に眉を揉みながらジェイドは顔を伏せた。
「どうしたんだジェイド。なんか変だぞお前」
彼の右手が伸ばされる。じゃらりと重たい音をたてて金の鎖が揺れた。まるで彼を皇帝という身分に戒める鎖。彼は一生をその鎖に縛られて過ごすのだ。今までもそうであり、そしてこれからも。
彼の目と同じ色をした髪飾りが揺れる。本当に、彼のための衣装だ。歴代のどの皇帝よりも、彼が纏うにふさわしい。褐色の肌、金の髪、水中の瞳。それらを見事に引き立てる最良の衣装。それがかえって、彼の身分を教えるようで。
「なんでもありませんよ」
「お前な……」
彼は大きくため息をついた。
「またなんか変なことでも考えてるんだろ」
「変なこととはなんです、心外ですね」
「俺には分かんないけどよ、お前の頭の中なんて」
でもな、と彼は笑う。苦笑いというにはあくの強い笑い方。
「お前がいてくれてよかったよ。今年もお前がいてくれるんだろ?」
ジェイドが何かを言い返す前に、彼は衣装を翻して民草の前へと向かう。
白き衣が青い王宮に映える。誰よりも近いところでその姿を目に入れられるという事実を、ジェイドはかみしめた。


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