「よしドクター、歯を食いしばれ」
遠慮なしに一発。魔力による筋力増加はしていないし、もちろん左手の義手も使っていない。計算上は女の細腕と変わらないはずだが、怒りの分だけ上乗せはされている。
甘んじて受けたのかそもそも避ける技術がなかったのか。彼は素直に左頬を差し出した。指に顎骨の当たる感触。そのまま遠慮なしに振り抜くと、彼は一歩たたらを踏んだが、それ以上引き下がるようなことはしなかった。お上品に白衣の袖で口を拭う。切れた唇から滲んだ血が一筋線を作った。
そうして、それまでの間、彼の新緑の瞳が一瞬たりとも自分から離れなかったことにようやく気づいた。
「気が済んだかい」
彼が静かに問うた。
瞳の中の緑は、光を当てた宝石のようにいっそうキラキラと輝いている。彼の中で何かが燃えているせいだと、レオナルドは悟った。同時に、彼が決して自分の選んだ道を違えないということも。
「……勝手にしなよ」
ドーピングなんて、馬鹿な真似。力も、知識も及ばない者が安易に縋るだけの手段。本当ならそれは臆病者の選択肢だというのに、彼は、その及ばない体力も、時間すらも捧げ尽くして、なお足りず、目に見えぬ強い決意と共にそれを選ぶ。臆病なはずの彼に、一番似合わない方法。
踵を返す。彼はまだ、あの瞳でこちらを見つめているだろうか。それならいい。それなら。
「私だって、勝手にやってやる」
呟くようなそれは、またひとつの決意だった。


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