見上げれば足元不用心

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 ――ちょっと付いてきてくれる?
 そんな安い誘い文句で、このオレンジ頭のお庭番はほいほいついてきてくれた。僕がどこへ行こうとしてるかも聞かないで。
彼は優秀だ。
 自分の身分と、僕の身分をよくわきまえている。だから彼は何も聞かないし、何も言わない。その事実にちょっと寂しくなったのは、僕のなかの割りきれていない部分のせいなのだろう。
 自分が所詮十六歳だと思い知るのはこんなときだ。
 流石に城門を出たあたりで、彼も行き先ぐらいはと尋ねてきたが。
「それで、この間のシンニチでね、城下のオススメ定食屋番付ってのがあってさ」
「わかりました、わかりましたよ坊ちゃん。そこに連れてけってことなんでしょ? なら初めから言ってくださればちゃんと馬も用意したのに……」
 パーカー風の服のフードを目深にかぶることで簡易変装を終えた僕を、ヨザックは呆れたような目線で見下ろす。
「僕が乗馬が苦手なのを君は知ってるはずだよ」
「俺が乗せてってあげますよ」
「上下に揺らされると食欲減退するんだよねー」
 別に君とするタンデムが嫌いなわけじゃないけど。
 たまには並んで歩くのも悪くないんじゃないかと思ったなんて、そんなこともちろん君には秘密だ。

「君見てると、なんかイラっとくるね」
「なんか今さらりとひどいこと言われたような……?」
 街に入ると人混みが増す。
 定期的に立つ市の日に当たっていたようで、通りは人だらけだ。
 喧騒に紛れないように、僕は声を張り上げた。
「背が高すぎる! 君と並んで歩いていると首がおかしくなるよっ、っと、うわっ」
 ただでさえフードのせいで視界が悪いのに、プラスこの人混み。何かにつまずいた僕が、自分で「転ぶ」と認識するよりも前に、如才なく伸ばされた手に掬いあげられる。
「おっ、と。大丈夫ですか」
 僕の腕を掴んでも、ともすれば余ってしまうくらい大きな手は、いちいち君と僕の差を思い知らせるようだ。
 背のことも――それだけでなく。
「大丈夫。ありがとう……お礼を言うのも悔しいんだけど。――そんなことより、早く手、離してくれる?」
「心配なので店までこうさせてくださいよ」
 思わず瞬いた。
 それはどういう意味?
 口を突いて出そうになった問いを飲みこむ。もしもそこに他意がなかったらわざわざランチのために街に下りてきた意味がなくなる。おいしくお昼ご飯を食べることなんて、できなくなる。
 他意。――いや、ないだろう、常識的に考えて。
「……しょうがないな」
 だから僕は甘んじた。
 今だけは、君の手を。

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