(ファンダム2ネタ)
連行しろとの言葉通りに、まるで罪人にするように主を引き摺るガイと、わかったわかったとどうにかそれを宥めながら自分で歩こうとするピオニー。微笑ましい光景である。アニスも、一段落ついたとばかりに連れだって部屋を出て行った。
自分は彼ら三人を見送る、つもりだったのだが。
時折彼の手が腰のあたりをさするのを、その仕草の違和感をジェイドは目ざとく見つけた。
はっと小さく息を飲む。なぜ気がつかなかったのか。たとえチェインメイルを着こんでいたとしても、あの刃は押し込むような重い一撃だった。撫で切るような動きには強いが、刺突には弱いのがチェインメイルの特性だ。
「ピオニー」
自覚なしに、いつの間にか呼び方が戻っている。廊下に出ようとしていた肩を掴み、もう一度室内に引っ張り込む。急用を思い出したとアニスとガイをごまかして二人きりになった。
無表情を向ければ流石に彼も気がついたらしい。気がつかれた、ということに。作ったような笑顔を向ける相手に、こちらも笑いかける。冷たい空気が流れた。
「あちらを向いて、背中を見せなさい」
「なんの話だ?」
「ごまかすんじゃありませんよ。まあ、実力行使されたいのならお好きにすればいいですが」
ジェイドは荒っぽい所作で彼を仮眠用のベッドにうつ伏せに押し付けた。ぐぅ、と苦しげな声が上がるが敢えて無視する。すると、抗議するように下から足が舞い上がった。
「暴れないでください。譜術を使いますよ」
大の男が、それもある程度の体術を習得した男が暴れるとなると流石のジェイドも生身だけでは抑えられない。低い声で告げればようやく動きが鈍くなる。
上衣をたくしあげ、腰に近い背を確かめる。
「……やっぱり」
そこをそっと撫であげるだけで下から息をのむ音がする。血こそ滲んではいないが、鎖が擦れたような痕と痛々しい青痣がくっきりと浮かんでいた。ぐっと押しこむと、流石に悲鳴が上がる。
「お前っ、なにすんだ痛いじゃないか!」
「骨が折れていないか確かめたんです」
「そこに骨はない! このッ、見え透いた嘘をつきやがって……」
「陛下」
首をひねってこちらを見ようとする彼の顎をとらえ、ジェイドは視線を合わせる。雰囲気が変わったのを悟って彼は怪訝そうな顔をした。
「なんだ」
「私がどれほど動揺したか、先ほどじっくりとお話しさせていただきましたよね」
「あ、ああ」
「まだ足りませんか」
「ど、ういうことだ」
「怪我をされているのを隠してまで、まだ私を動揺させたいのですか、と言っているのです」
それは自分でも思ってみなかったくらい、ひどく憔悴した声だった。頭では分かっているのだ、あれはそれほど大した傷ではない。毒でも塗られていない限り致命傷にはならないし、もし毒が塗られていたら彼はすでに動けなくなっているはず。だからつまり、あれは大した怪我ではないのだ。
「悪かった。悪かったよ。後できちんと医官に見てもらう。でも心配するような怪我じゃない。そうだろ」
「……」
いつの間にか緩んでいた拘束の中、彼はくるりと体を反転させると自分からジェイドを抱きしめた。優しい手が背を滑る。
「心配かけたなあ」
「……」
「これ以上心配かけちゃ、悪いと思ったんだよ」
「……」
「よしよし」
「……赤ん坊のような扱いはやめてください」
甘やかな声。それこそ、子供を慰める母のような慈愛に満ちた声だ。ジェイドは気に食わない状況だと思いながらも、なぜだか彼の手に逆らえないまま彼の胸に顔をうずめていた。
「もうしないよ。死んだふりもしない。怪我を隠したりもしない。何より、お前が守ってくれるんだろ?」
「約束ですよ」
「ああ」
「破ったら……こうですからね」
ん?とピオニーが問い返す間もなかった。手袋で覆われたジェイドの手が、青痣よりも若干下、綺麗なラインを描いた腰骨をすっと撫ぜてゆく。
今度こそ、盛大な悲鳴が上がった。
「何しやがる馬鹿ジェイド!!」
「馬鹿とは心外ですねえ、私はただもの覚えの悪い陛下に忠告して差し上げただけですよ?」
「口で言うとかあるだろ! つーかなんだあれ! 何考えてんだこの色魔!」
「色魔? それは陛下ご自身のことでは?」
「あー黙れ黙れ黙れ! もういい、絶交だ! お前みたいなやつは絶交だからな!」
――廊下でほったらかしにされていたガイとアニスは、静かだった室内から突然聞こえてきた罵声を生暖かい気分で聞いていた。
「絶交、って……」
「ほんとに四捨五入して四十なんですかあ、あの人。今時ないですよあんな口喧嘩」
「なんだかんだ言って仲がいいから、あの二人……」
「アニスちゃんのことなんてこれーっぽちも目に入ってないんだから」
返事は必ず返すと言われたとはいえ、アニスはマルクト皇帝陛下に本当にラブレターを送っていいものか、躊躇したとかしないとか。


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