厳冬の頃になると、忍たま長屋にも火鉢が要る。炭は大体、クラスでカンパしてまとめ買いしておき、夕餉の後の残り火で炭に火をつけ、おのおの部屋に持ち帰るのだ。
夕餉までに戻れるかどうか、と言い置いてお使いに向かった三郎は、案の定食事の片付けが全部済んでしまってもまだ姿を現さない。雷蔵は、寒がりの相棒のためにいつもより多めに炭をもらった。ついでに、夕餉の材料の余りの芋をいくつか懐に入れる。火鉢で炙ればいい夜食になるだろう。
炭を持って部屋に戻る。炊事場からの僅かな距離が、食事で取った熱をどんどん奪う。道すがら見上げた空には、満天の星々が瞬いている。ほ、と吐いた息が白い。明日は手水鉢に氷が張るだろう。雷蔵は歩む速度を早めた。
長屋にたどり着くと、夕餉の前に消したはずの明かりが戸の隙間から漏れていた。三郎が戻っているのだ。雷蔵は相棒の名を呼びながら戸を開けた。
「三郎?」
じっ、と。
せっかく明かりをつけたのだろうに、部屋の隅の暗がりにうずくまるようにして、三郎が居た。掻い巻きを頭からかぶっている。雷蔵が呼んだのに、視線まで凍えてしまったかのように、一点を見つめたまま動かない。
雷蔵は鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。血のにおいも、火薬の匂いもしない。危険なお使いではなかったらしい。寒いだけか、と安堵の息を吐いて、雷蔵は一歩部屋に入り戸を閉めた。
三郎は寒いのが苦手だ。もっというと、暑いのも苦手だ。全般的に、気候の変化に弱いのである。しかし、人前ではそれを見せない。我慢強いというより、単純に見栄張りなのだ。あるいは、よく知らぬ者に弱みを握られたくないと思っている。それで無理をして、誰もいないところで反動を受けているのでは世話が無い。
雷蔵は黙って火鉢の前に腰を下ろした。明かりを体で遮らないよう、三郎に背を向ける形で。さっぱり反応のない三郎は気にせず、火鉢に刺した火箸を取った。軽く灰を均してから、そこに持ってきた炭を入れる。せっかくついた火を消してしまわぬよう、炭に空気が行き渡るように間を空けて、しかし離れすぎないように。
ぱちぱちと炭の燃えるかすかな音が部屋の中に響く。ちょうどいい案配になったのを見て、火箸を元のように火鉢に刺した。避けていた五徳を火鉢にかぶせるように置き、その上に網を乗せて、雷蔵は懐から芋を取り出す。
それを網の上に置くが早いか、ずしり、背中に人一人分の体重が乗っかって、まるで見計らったかのようなタイミングに、雷蔵は苦笑した。火鉢の用意を邪魔することは、さすがの三郎もできなかったと見えた。
「重いぞ、三郎」
「さむい」
「すぐにあったまるから、もう少しの辛抱だ」
「さむい……」
背中にひっついた三郎の髪からは、濃い冬の匂いがした。つんと鼻の奥を刺す、冷えて乾いた空気の匂い。三郎の体もまた、冬そのもののように冷たい。着物越しに、どんどん体温が奪われてゆく。
雷蔵は、火鉢にかざしていた手を後ろに回して、三郎の腕を取った。氷かと思うほど冷えた手を、自分の体の前に持ってこさせる。自分の熱を分け与えるように、手の甲を撫でさすって暖める。火鉢の熱も相まって、凍えて震えていた指が、徐々にほどけてゆるんでゆく。
「どう、あったまってきた?」
「……まだ」
「隣に来て火鉢に直接当たった方が、もっとあったかいんじゃない?」
「ここがいい」
ぐりぐりと雷蔵の肩口に顔を押しつけて、離れたくないと言わんばかり、三郎は雷蔵にしがみつく。
「ここのほうが、あったかい」
「……はあ。芋が焼けるまでね」
うん、と首が上下するのを認めて、雷蔵は再び三郎の手を撫でる。あれほど冷たかった手は、もうほとんど雷蔵の手から熱を奪わない。
ぱち、ぱち、と炭がはぜる音。二人分のかすかな呼吸。
二つの体温が徐々に馴染んで、同じになる。
しんと冷えた静かな夜に、ここだけはあたたかい。


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